【メディア・フェミニズム】マスコミ学会ワークショップ報告その1

 福岡空港経由で熊本から戻りました。これまで馬刺しだの熊本城だののすばらしさしか書き付けてこなかったのですが、遅まきながら熊本学園大学でのマスコミ学会ワークショップ「バックラッシュはどのように起きるのかーマスメディアとWeb言説空間との呼応関係」の報告をします。わたしは初めての司会を担当し、どぎまぎ状態でしたが、チキさん、今井さん、北田さん、山口さんのパネリストならびに参加してくださったみなさまがうまく盛り上げていただき首尾良くいろんな議論が楽しい雰囲気で進んでいきました。どうもありがとうございました。20歳の今井さんも参加されフレッシュな陣容となりました。なんとわたし以外は全員20代、30代!!「マスコミ学会とは思えないワークショップだ」というビミョーな感想が出ていましたが、こんなメンツでやること自体がマスコミ学会的には珍しいことだったということにしておきましょう。前日の宴会からのノリでワークショップはとても楽しめました。楽しめたということ自体がわたしにはとても収穫に思えました。

 雰囲気をちょっと伝えると、わたしは当初ふつーの白のちょっとエスニック風のTシャツだったのですが、それじゃビジネスおばさん風だとチェックされ、結局、胸には"Preserve Article 9" 、背中には”Celebrating Protest"というシカゴ製Tシャツを着て会場へ乗り込みました。他のパネリストも「産む機械Tシャツ」だったりでスーツやネクタイなどビジネスっぽい雰囲気はだれひとりありませんでした。というわけでノリノリの雰囲気になっていたと思います。中にはちょっと引いていた方もあったかもしれません(笑)。

 すでに「成城トランスカレッジ」でチキさんが問題提起者として問いかけたことを中心に報告をされていますのでご覧になってください。わたしはいくつかの論点を散発的に書いてみます。チキさんの補足という感じになるかもしれません。

 1)ワークショップでなされた重要な論点の一つに、若い経済弱者が右傾化しているという主流フェミニズムの主張への疑問がありました。例えば、「『下流』『フリーター』『無職』と呼ばれる人たちの一部が、・・・パソコンやテレビ、雑誌の前で・・・「サヨクフェミニズム・弱者叩き」をしています」(伊田広行2006:177)といった主張に対する疑問です。人々が「右傾化」したのではなくそうした意見が「見えるようになった」「可視化」されたにすぎないという指摘が強力になされました。これはチキさん、今井さん、北田さんに共通した論点でした。チキさんは2ちゃんねるなどの利用者調査ならびに「ジェンダーフリー」へのバックラッシュ現象においてもともとあった右傾化言説がウエッブ空間を通過する中で焦点化や二極化され中で強調されて表れるというサイバー上の特徴とみなすべきだという指摘だったと思います。
 一方、今井さんはイラク人質になった時に受けたバッシングにひとつひとつ電話をかけて応答した経験から、北田さんはアンケート調査から「世の中が右傾化している」「不景気で不遇感をもつ若者がバッシングに走っている」という根強い見方に強力に反論されました。実際の体験からまたネット利用者へのアンケート調査を踏まえての主張は重要なものだったと思いました。 

 2)次に、フェミニズムへの「バックラッシュ」がかつてないスケールで起きているという論点についても議論されました。「日本でもバックラッシュが勢いづいたのは男女共同参画社会基本の施行とその全国的な広がりをみてのことである」(若桑2006:86)といい、それまでのフェミニズムへの批判はとるに足りなかったかのように言われています。これについては、山口智美さんから行動する女たちの会が「わたしつくる人僕食べる人」CMやNHKへの批判に対するマスメディアの「市川房枝さん、ヒステリックですね」といったバッシングの記事などをパワポで列挙しつつ、これまでのフェミニズムの歴史を欠落させた見解であると指摘されました。わたしもそれに加えてリブ運動の研究を踏まえ、今の女性学が「リブとは一線」と銘打ってアメリカの女性学・女性運動を経由して生まれたという誕生秘話(?)をつくりだしたのは、ひとえに「あんなひどいバッシングを受けたリブ運動と同一視されたくない」という理由だったことを紹介しました。女性学者のみなさんはリブ運動がいかに激しくバッシングされたかを身をもって体験してこられた方々であるにもかかわらず、近年のフェミニズムへのバッシングだけをバッシングとみなし、70-80年代のフェミニズムの歴史にバッシングはなかったと語られるのはおかしいと指摘しました。

 3)さらに、フェミニズムのネット活用度が低いこと、活用してもプレゼンス能力が低く逆効果になっているという論点がチキさんからだされました。チキさんは、Web2.0の時代なのにフェミニズムは、運動0.5だというこれについては山口さんから女性学会のHPが予算をかけて外注しているにもかかわらず未だに更新に手間がかかり、双方向なコミュニケーションができないホームページスタイルを継続していること、バックラッシュ対抗サイトを立ち上げても同様にホームページスタイルにこだわっているためにせっかくのウエッブにもかかわらず更新がなされずフレッシュな情報が提供されないという課題を出されました。情報を出しても一方通行でどのような反応がちまたで起きてるのかといった情報も入らないのは致命的な課題であると指摘されていました。また、女性学・女性運動系はなぜかメーリングリストだけしか活用しないことの課題も指摘されました。しかし、フェミニズムのネット発信、ほんとに増えないものか、と出会った人には「ブログを書こうよ」としきりに勧めているのでした。

 ところで、女性学・女性運動系でネット発信している数少ないブログである山口、斉藤の「ジェンダーフリーフェミニズム」サイト(やそれぞれのブログやなど)についても議論してもよかったねと終わってから話しました。この点については、みなさまからのご意見も受けたく思いますのでよろしくお願いします。もっとこうしたらなどという提案もうれしいです。

 このほかにもジェンダー論を教える際の困難などたくさんの論点が出されましたが、とりあえず上記の3点についてだけ簡単に紹介しておきます。誤解などあればどうぞご指摘いただければと思います。とにかくワークショップにご参加くださったみなさま本当にありがとうございました。時間が無くコメントが言えなかったという方、引き続きこの議論を続けようということをワークショップで確認したことでもありますので、どうぞ気軽にブログコメント欄に書き込んでください。よろしくお願いします。

今井紀明さんの報告を読んで

紀明のかけらでマスコミ学会ワークショップ参加の報告を書いておられます。それを読ませて頂いてとても共感した点を2つ書いておきます。今井さんとは地方在住という点で共通する思いを抱いているなあと感じました。

 まず、「学会という場に若い研究者の顔や女性の研究者がいないというのは広義な意味で視点が欠けるといってもいいんじゃないのかな」と書かれているのはまったく同感です。

 次に、「地方からメディアとして情報を発信するという点からBEPPoo!!をしているので、中央に溜まっているマスコミに対してなんだかいい感じを受けない。だいたい、これだけネットが発展したんだからもっといろんなことを地方のメディアとして発信したいし、この小さな別府という街をアカデミックな意味でも意味のある場所にしたい。」という思いにもそうだよなと思います。常々、マスメディアが東京から情報を発信するという中央集権主義的な志向をもっており、東京以外の情報はあくまでローカルネタとしか流通しない(ということは最初から東京情報とは別扱い)ことにはとことん辟易していたところなので、そうだそうだと思いましたです。

 今井さんのブログにはハッとさせられることが書かれており読ませていただくのが楽しみです。一つ前のエントリーでの「一つ自分が今言えるのは「ネット右翼」というのは本来そこまでいわれるほど存在するのか、ということだ。僕の考えとしてはクエッションマークだ。・・・・むしろ注目すべきなのは「ネット右翼」的な言説がなぜ広まったのか、というところにあるのではないかと思う。」もそうだ。とても重要な主張だと思う。上でも書いた「右傾化」ではなく「右派言説の可視化」だというところにつなげて読んで頂ければと思います。