クリントンの「涙」報道とジェンダー問題

今年はメディアとジェンダーを取り上げるといった手前、このテーマを見過ごすわけには参りません(笑)。かつては、女性政治家の涙は「やっぱり女は感情的で涙もろいから政治の世界には向かない」というネガティブなトーンで報道され、女性政治家には不利な結果がもたらされると指摘されてきた。小泉首相も、「涙は女の武器」と言うでしょうと田中真紀子外相(当時)が涙ぐんだことをつついたものだ。

しかし、今回のクリントン候補の選挙戦では対抗するオバマ候補がアフリカン・アメリカンであり、単純に「男vs 女」という比較は通用しない。それに今回クリントンは、この涙報道で女性の支持を集めることができ、勝利にむすびついたと言われている。「涙」報道はきっと大きな影響を与えたんだろうと思う。しかし、どのようにその報道が効いたんだろうか。それが問題だ。わたしには速攻で答えのでる問いではないので、ちょっとググってみた。一つ、二つ紹介すると・・。まずは、日本での報道。
クリントン候補の目に涙、選挙戦「つらいし大変」は日経の報道。

「つらいし、大変……。本当に大変です」。米大統領選に向けた民主党の指名獲得レースで正念場に立つクリントン上院議員が7日、有権者の前で涙をみせた。いつもは冷静であまり感情を表に出さないクリントン氏だが、選挙戦の疲れとプレッシャーが積み重なり感極まったようだ。
 ニューハンプシャー州ポーツマスで7日、支持候補が未定の有権者を招いた集会で、地元の女性(64)が「同年代の女性として激しい選挙戦は容易ではないと思う。どうやって自分を支えているのか」と尋ねた。すると、それまでてきぱきと政策を説明していたクリントン氏は声を詰まらせ、目は涙で潤んだ。

「ヒラリーに同情票? 泣いて勝った」という日刊スポーツ紙では、次のような分析が、、。

初の女性大統領を目指すクリントン氏が“女の涙”でがけっぷちから復活した。
米メディアの中には「米最高指導者を目指す候補が涙をみせるとは残念」との批評もあったが、普段感情を殺して「鉄の女」の異名を持つクリントン氏の涙に同情票が集中した可能性もある。

と思えば、ヒラリー氏の目に涙 支持率下落、「うそ泣き」の見方もと「うそ泣き」説を持ち出すのは朝日新聞だ。

米大統領選の最初の予備選が翌日に迫ったニューハンプシャー州で7日、同州での支持率が下降している民主党ヒラリー・クリントン上院議員が目に涙を浮かべる一幕があった。米メディアが一斉に伝えた。
いつも強気のクリントン氏が人間的な一面をみせたという同情論の一方で、「疲れが出たのだろう」「(有権者を取り込む)うそ泣きでは」といった見方も出ている。

朝日は、ちょっと前には、「大統領にしたくない人」ヒラリー氏が断トツ首位 というネガティブ記事も書いているようだ。うーん、朝日はクリントン嫌い度高そう・・・。

クリントン氏を嫌うのは、共和党支持者で64%、無党派でも42%にのぼった(民主党支持者は17%)。40歳以下の男性の53%に嫌われ、若い男性に「ヒラリー嫌い」の傾向が強い。一方、40歳以上の女性で嫌うのは36%で、中高年の女性には比較的、受け入れられている。

一方、毎日新聞余録:クリントンの涙の解釈は逆だ。彼女はぎりぎりのところで踏みとどまったからこそ支持されたのだという見方をする。

泣かなかったから勝てた、のではないか。インターネットで映像を見ると、だれに投票するか決めていない女性に囲まれている。「簡単ではないんです。正しいことだと熱烈に信じていないとやってられない」と話していて、声を詰まらせ涙があふれそうになった。その時、温かい拍手が広がる。彼女はぎりぎりで気分を切り替えることができた


アメリカでの取り上げもみてみると、 The media plot to dismiss Clinton because she's a woman(「クリントンは女だからダメだというメディアの戦略」)では、例の「涙」が取りざたされるまえは、クリントンは服装や髪型ばかり報道されてきたと指摘し、メディアはクリントンという人物を嫌っているのではなく、クリントンが「女だから」嫌いなだけだと指摘している。つまり女嫌いが彼女に不利な報道となって現れているだけで、ヒラリーアレルギーといった個人的な資質に対する攻撃とは違うといいたいようだ。しかし、この記事には、いつもの記事とは違っていただけないというレスもついている。「女だから批判的に報道されている」というシンプルな分析にイエローカードが出されているということだろうか。


一方、テネシー・ゲリラ・ウーマンというサイトでは、この涙をにじませた発言について、対抗馬たちの反応を取り上げている。特に、エドワーズのコメントについて関心を示して紹介している。ざっくりといえば、「トップに就くってことは強くて毅然としていなきゃいけないってことだ。大統領選はきつい仕事だが、アメリカ大統領になるってこともまたつらい仕事なんだから」ってトーンの発言をしたようだ。このゲリラ・ウーマンはすかさず、エドワーズは、ヒラリーが弱みを見せたってことは、要するに彼女は大統領というハードな職につく資格がないってことを言っているに等しいと指弾している。これはそうだよねとうなづけるところだ。しかし、ヒラリーのあの発言がカムバックをもたらしたのは一体どういうことかについては、答えはまだみつからない。

New York Timesは、クリントンの勝因について、Clinton’s Message, and Moment, Won the Dayという分析記事を書いています。ここからどうぞ。

メディアと女性政治家について英語圏ではどんな研究があるかについてはサイトでも読めます。ジャーナリズム研究ばりばりの文献があがっているように思いますが、、。

今回はとりあえず速報ということで・・・。どんな解釈があるでしょうか。ご意見をヨロシク。