「亡くした二つのリンゴ」尾崎祈美子さんの戦争との対話のかたち

 もう日にちがたってしまったが、さる6日に高岡女性の会連絡会の20周年記念の集いがあった。記念の集いには、今富山3区に出馬が取りざたされて話題の人・橘慶一郎市長も冒頭顔を出されていたが、来賓挨拶コーナーが終わりでご退場ですと司会が声をかけるやいなや他の来賓を引き連れ猛ダッシュで帰られた。そのあとがすばらしかったのに、残念。


 RCC中国放送のディレクター尾崎祈美子さんの制作された「亡くした二つのリンゴ」という番組 DVDを見ました。副題は「日本と中国のはざまで 長谷川テルが遺したもの」というもの。長谷川テルをテーマにした物語で、長谷川テルの遺児長谷川暁子さんを主人公にして長谷川テルの人生を振り返るというものです。制作された同放送局ディレクター尾崎祈美子さんの取材にまつわるお話つきでした。


 長谷川テルといっても知っている人はもうそんなに多くはないのだろうと思います。日中戦争のさなか、中国重慶日本兵に向けて「あなたの敵はここにはいません」とラジオで語りかけて中国では喝采を受けるが、日本では「売国奴」と呼ばれた女性だ。34歳の若さで中国で亡くなっているが、2人の子どもを遺した。その一人暁子さんがテルの人生を辿るというのがモチーフとなっており、戦争をすることで人の人生がどれだけ残酷に切り刻まれるかを教えてくれる。尾崎さんが長谷川暁子さんと上海、武漢、南京、重慶、北京、ハルビン、ジャムスという7つの都市をまわって取材を重ねたものだ。今年2月に全国で放送されたもの。ギャラクシー賞奨励賞を受賞しているという。


 尾崎祈美子さんのお父さまも戦争体験者だという。尾崎さんも以前書いた深山篁子(たかこ)さん同様、父たちが戦った戦争とこういう形で対話されているのだなと感じた。広島という地に暮らしておられることもありとらえ返しの意志はとても強固なものである。しかしながら画面は限りなくつくった人の人間性を表すものだと痛感した。あくまでやさしいし、人の心の奥まで揺り動かしてくる。


 尾崎さんのあのやさしい表情やしぐさとこの作品のえぐっている史実の残酷さがかけ離れているからこそ、余計に印象に残った。また、これだけ人の心を動かすものをつくれるということにすごみを感じた。


 間違えてしてしまった戦争との対話を続けていくこと、どうしてそうなったのか、それこそが平和を作るのだ、という強いメッセージを発していた。戦争の中でもがき、自分の正しいと思うことを貫いた女性の勇気にまた一つ気持ちが豊かになった気がした。女性の会の20周年記念にふさわしい映像であった。関係者の汗と涙の激しいドラマがあってDVDが無事届き当日鑑賞できたことに感謝したい。


 当日発表されたDV支援基金「パサパ(pas a pas)」のことはまた改めて書くことにする。