女性学会プレ研究会の報告

6月14日東京ウイメンズプラザにて開催された、日本女性学会大会での「ジェンダーフリー」ワークショップに向けたプレ研究会にご参加くださった方、どうもありがとうございました。ばたばたしているのですが、とりあえずのレポです。「ジェンダーフリー」ということばに象徴される行政密着型フェミニズム女性学への問題提起を直接対話の場で行うという初めての機会になりました。

これが実現するまでには長い年月がかかってしまいました。発端となったのは、山口智美さんの「ジェンダーフリーをめぐる混乱の根源」論文でした。2004年11月のこと。その後、山口智美さんと企画提案した東大ジェンダーコロキアムで、わたしは実際にこの間の運動や条例・行動計画策定に関わった立場から、条例制定運動など「男女共同参画」運動が行政密着、トップダウン型に変節してしまっていることを批判し、「女性運動の戦略」としては、行政密着、トップダウン型から権力関係を変える女性運動へと転換することが重要だということを主張しました。詳しくは、東大ジェンダーコロキアム集会報告をご覧ください。

このほかにも、女性学と女性運動への問題提起を山口智美さんと、2005年から「ジェンダーフリーとフェミニズム」サイトにて行ってきました。その後、2007年6月には、日本マスコミ学会で、山口智美さん、荻上チキさん、北田暁大さんとワークショップを持ちました。報告はこちらとこちら。2007年6月の全米女性学会で山口智美さん、小山エミさん、ノーマ・フィールドさんと発表をしてきました。報告は、こちらも。2009年3月のアジア研究学会では、山口智美さん、小山エミさん、荻上チキさん、ローレン・コーカーさん、山口一男さんとでパネルをしてきました。報告はこちらです。


このように2004年以来ずっとネット上および雑誌論文、学会発表(海外が主とはいえ)などで問題提起をしてきました。しかしながら、ジェンダーフリーへの批判や女性学主導の行政密着型「男女共同参画運動」へのわたしたちの批判は、たまーに『「背中から切りつける」ような批判』とか「相互批判の作法がなってない」というような言説がだれのことかを示さずにぽっと出てきたりはしていましたが、ほとんどないものとして時はすぎてゆきました。

そして今回が女性学会の代表幹事や幹事経験者の方との初めての対話の機会でした。しかしながら、女性学会側からは、行政密着型フェミニズム女性学への問題の一端でしかない、「ジェンダーフリー」が誤訳であることに対してのみ応答されていました。行政密着型女性学の行動については、やはりそれ以外には方法がないのだ、行政に関わった方がいいというアドバイス(?)までなされました。これは問題提起が受容されていないことを示すサインでした。

それと、ヒューストンの誤訳問題の指摘についてばかり反応されていました。特に誤訳問題への執着ぶりは大きく、山口さんの指摘の仕方がよくないみたいな反応でした。じゃ、いったいどうだったらよかったというのだろうか。それ以外には、女性学会の方々のご発言はすでにいろいろな場で発表しておられる内容の繰り返しで新味がありませんでした。「女性学を壊すことを含めて」なんていうフレーズが聞かれはしましたが、本当のところはどうなんでしょう。後で参加者の方からは、個別の批判を受けてほしい、批判を受け付けないで一枚岩を強調するのはどうか、という意見が出ていました。批判を受け付けないという空気が感じられたのでしょう。

また、女性学者のみなさんが政策現場や運動現場に直接関わっておられないこと、またネット情報をみておられないことも明らかになりました。実際に起きていることをあまりご存じないということが意見の差がでる要因と思いました。

収穫は、当日ご参加いただいた方にご発言いただいたことでした。教えられることが多いものでした。ネット上でフェミニズムへの攻撃と闘ったことが語られたり、男女共同参画が地域では「男女いっしょに活動すること」になっているという実態が語られました。また、「ジェンダーフリー」が原典に当たらないまま誤訳を繰り返していたことについては、当時学生であった方から学問の信頼性が打ち壊されたというご発言も出ました。学問は大事だと思うし、その有用性を認めているからこそ、個別の批判を受け付けて、現実の諸問題に対処できる有用な学問を作っていってほしいという提言がなされたのは大変意味深いことだったと思っています。

そこで、28日の本大会では、さらに実証的な研究・実践活動の視点から、女性学主導の行政密着型「男女共同参画運動」について疑問を提起していきます。地域における男女共同参画政策が今どうなっているのか、について問題提起を進めたいと思っています。今度は、新しい情報もご紹介していきたいと思っていますので、引き続き関心をもってご参加いただければと思います。よろしくお願いします。