フェミニズムは選挙の争点をどうつくるか

 山口智美さんがふぇみにすとの論考で「WANの緊急政党アンケートにみる、フェミニズムの『理論』と『実践』の乖離」を書いておられる。WANが衆議院選に向けた取り組みとして「女性」が争点!だとしていることに、1)既存のマニフェストに迎合している、2)「女性」を打ち出しているのは性の二元制批判を忘れたかのようで性的少数者を切り捨てるもの、3)「女性」をという戦略はすでに無効だと出ている戦略、などの理由を挙げて疑問を提示しておられる。私もこれらの「女性」を争点として打ち出す取り組みをみて、びっくりした一人である。というのも、つい先日「マサキチトセさんへの応答、書きました。」で、以下のように書いたばかりであったからだ。

 「ジェンダーフリー」をめぐる保守派からの批判を受けたフェミニズムの対応には、実質的にクイアを排除する面があった。その現状を打開するために考えられる方策は、「男女平等」に戻るというのではなく、新たに「性の二元制」ならびに「異性愛制度」と「男性標準」を標準的なルールとする現在の文化や規範を見直し、「性にまつわるあらゆる形態の差別」を解消するという考え方を打ち立てること、さらに、それについての具体的な取り組みをフェミニズムを支持する人たちが積極的に始めることである。

 そして、マサキチトセさんへの応答:「フェミニズム」の射程を狭めてしまう「ジェンダーフリー」擁護と、反「ジェンダーフリー」言説でも、以下のように書いたのであった。
 

 今回発表された民主党の政策マニフェスト*1、特に「こども・男女共同参画」と見出しが立てられていることをみても、異性愛制度バリバリで子どもを持つことが前提に立った政策であり、子どもの保護や教育に強調が置かれている点は従来の自民党の政策と同程度かそれ以上のように見える。その一方、子なしシングル、レズビアン、ゲイなどへの目配りはまったく見られず性の二元制を強化していることに脅威を感じた。トランスジェンダーについても、障がいとして扱うことで「男女共同参画」とは別に配されており、これはまずい、きちんと指摘していかねばと思った。

 さらに、これに付け加えるなら、民主党の「真の男女平等のための基盤作り」という項目では、「真の男女平等」を阻害するとして問題にされているのは「固定的な性別役割分業意識」だけのようにみえるのである。これはないぜと思う。民主党はこれまで尾辻かな子さんという同性愛者の議員候補を擁立するなどしてきた実績がある。尾辻さんは、セクシュアルマイノリティがもっと行きやすいように法整備をすることを公約に謳っている。こうした問題に取り組む姿勢を見せていた点で自民党よりリベラルと期待していた人も少なくないと思う。それだからこそ、裏切られた思いがするのだ。先に書いたように、トランスジェンダーについてのとらえ方も、改革をやる党としてはもう一歩踏み込んで自民党時代のように「障がい」を追認するのではない方向を見せてほしかったと思う。いや、変えていくようにこれからわれわれが動かないといけないということだc。

 民主党もリベラルな議員がたくさんおられると思う。それにもかかわらず、政権奪取が現実的になってきたという認識ゆえになのかどうなのか、自民党のスタンスと大変わりしないものになっているのは残念である。政党のマニフェストがこんな状況であるからこそ、フェミニズム市民運動は、自らはっきり、くっきりとした争点作りをしていかねばならない。だれがみても、「ああ、変わった」とわかるようなものを。それだからこそ、WANの行っていることが、従来温存型の争点づくりに見えるので、気になったのである。

 一方、自民党のマニフェストも見てみよう。自民党マニフェストでは、「少子高齢社会への対応」の中に「子育て支援の充実」が出てくるのと、「今後の人口減少社会において、若者・女性・障害者の方々がその能力を十分に発揮し、安心して働き、安定した生活ができる社会を実現する」とあるくらいで、実は性をめぐる差別の解消は取りあげられていない(とわたしは思う)。「子育て支援」のところでは、「少子化の流れをくいとめるため」が冒頭に出てくる。あまりに急いでつくったのかもしれないが、これでは国民のことより人出不足のことしか考えていないのがばればれである。「若者・女性・障害者」も、まるで社会のために働き手が必要だから、いつもはいらないけど、今は能力を十分に発揮させてあげるといわんばかりである。これをしっかり読めば、あまりにひどい認識にげんなりする人が多かろうという内容である。

 
 「フェミニズムは選挙の争点をどうつくるか」であるが、政党マニフェストがこんな状況である。既存の政党の枠組みを基本としてそれに足したり引いたりでは困るのだ。それこそ日頃、研究会や学会などで議論してきた性の二元制を壊す取り組みを争点に入れていくこと、さらにその争点を具体化させるための取り組みを打ち出していく時ではなかろうか。

 実際にはレズビアンバイセクシュアルの持っているさまざまな生き難さを変えていくための政策や、トランスジェンダーインターセックスが抱える医療、健康、雇用、生活保障など深刻な問題などを重要な争点にすべきである。

 あまりにも昭和な時代と見える争点づくりストラテジーをネットで目にして、いささかびっくりしたが、性をめぐるさまざまな差別について、変革の気運をつくり出すとしたら、政権交代が現実味を帯びた今しかないのではないか。

 橋下知事でなくとも、今は「政治闘争のとき」である。若い世代からも政策提案として「逆マニフェスト」が出ているという。これからでも遅くない。フェミニストももう少し具体的で新しい枠組みを提示し、争点づくりの「政治闘争」に参加していきたいものだ。ネットで具体的な取り組みを出しあうなどできないものだろうかなどとつらつら考えている。

*1:改めてみたら、政策集であり、政策マニフェストは別であった。しかも、もっと何も入っていないではないか。。