*「ジェンダーフリー」概念と女性学・行政・女性運動

  • 「行政密着型の女性運動」への批判

 12日の東大ジェンダーコロキアムでの標記の勉強会が終わって以来、つらつら考えている。
 いろんなところで話題になっているのはうれしいのだが、当日話し合われた論点が、「ジェンダーフリー」か「男女平等」かであるかのような報告をちらほら見るにつけ、わたしの真に伝えたかったことをきちんと伝える必要性を感じている。まず、伝えたかったことは、「女性運動はジェンダーフリー男女共同参画などの呪文語の導入によって行政密着型、体制順応型に変容してしまった」ということです。しかし、それがどうしたけか出席者に伝わらなかったようなのです。
 それでその後どうして伝わらなかったのだろうか、ということだけを考えている日々です。
以下、「シャキット情報」35号に書いた「行政密着型の女性運動への批判はなぜ伝わらなかったか?」という文の一部を抜粋します。

私が「『ジェンダーフリー』概念からみえてくる女性学・行政・女性運動の関係」という企画書を友人の山口智美さんと練ったのは、「ジェンダーフリー」にまつわる全国の条例制定運動が行政密着型の女性学者主導で行われていることへの批判をしたかったからでした。
 まず、高岡の条例制定運動については、当日、山下さんが報告され、私も補足したのですが、高岡の条例などの名称に「男女平等」が入り、苦情処理機関も実現したのは、おそらく多くの条例制定運動とは異なり、行政と同調する運動ではなく、もぎとる運動だったからだったと思います。こうした高岡での「男女平等」を掲げる運動について、初めて全国発信されたと思います。また、富山市男女共同参画条例は、家父長的市長によって逆の方向に利用されたものだということも主張しました。それは「男女共同参画」がゆるくて何でも入る概念として作られたことに起因しているということも。また、このように条例制定運動の多くが内容も国の基本法と似たり寄ったりの「男女共同参画」条例になっているのは、行政密着型の女性学者が主導する行政との蜜月運動だったからだという主張も多少行いましたが、うまく伝えることはできませんでした。それは、次のような原因があったように思っています。
1.  「学者対運動」という図式があり、特に運動の人から「混合名簿運動どうでもいい」という発言をした上野千鶴子さんへの批判がとぐろを巻いていた。特に、その一点のために東京都の教員とそのサポーターが多く参加していた。
2. 上野さんはこのテーマに関わる女性学者のなかでは例外的に、行政密着型女性学者ではなかった(行政の審議会などには関わってもいない)。
3. よって「ジェンダーフリー」概念への疑問から発する「行政密着型女性運動への批判」は、中心テーマから外れた。
 条例制定運動の流れが行政と「いい関係」の運動であったのでしょう。だから今度、行政がさっときびすを返して「バックラッシュ」派と「いい関係」になった時、どのような対抗戦略を示していけばいいのかわからないのだろうと思います。元々闘ってきたのなら、今だって続けて闘うだけでいいのだけど、かつては蜜月だったから(あるいは大きな流れにのっただけで)手に入ったのであって、闘って勝ち取ったものではなかったのだろうと思うのです。(だけどそれが多数派だからそのことに気づいていないのでしょう) 「ジェンダーフリー」は単なる呪文のようなもの。「ちちんぷいぷい」だって、「あだぶらかだぶら」だって何だってよかったのです。行政と学者が結託して作ったことばに惑わされないということが重要です。「ジェンダー」「エンパワーメント」「協働」・・・次々に出されるカタカナ語や目新しいことばにはご注意を!「男女共同参画」も、どうにも定義できる「ゆるい」ことばです。つい先日もオレオレ詐欺にひっかかりそうになった私が言ってもあまり説得力がないのですが、まじめでお勉強好きな女性たちよ、疑うことを忘れないで!

 
 このように、なぜ伝わらなかったのかを考えているところです。富山の女性運動の仲間達の感想でも、上野さんが知らない運動のことを教えてあげたから意義があった、というのを聞きます。それはわたしも異論はありません。しかし、わたしの問題提起はそこではないのです。女性学のなかにもいろんな立場があり、女性運動の中にもいろんな立場があるってことに気づきたい。そして体制順応型の女性運動を脱却しようぜ、ということになのです。
 しかし、その提起がここまで通じないとは・・・
現在の女性運動が体制批判の運動であった「ウーマンリブ」からどれだけ遠いところに来ているか、を示すようです。わたし自身は、80年代はじめには反原発運動、消費者運動などに関わって、その後女性運動に入りました。それなので、女性運動が、体制批判的な要素が少なく、緊張感を常に強いられる反原発運動などとは異なり、正直言って気楽な面も感じました。
 それがこのような状態を招くことになるとは・・・という気持ちです。
また気を取り直して考え、行動していくつもりです。
 何かいい方法がありませんか。お知恵をお借りしたい!