遅まきながら、男女共同参画センターの非常勤問題

 富山はちょうど桜が咲いています。あっという間に新学期となりました。

 去る3月29日、中日新聞/北陸中日新聞/東京新聞「<はたらく>「女性の自立」空回り 各地の男女共同参画センター」という記事が出ました。高岡支局長の沢井秀和さんの記事です。「国や自治体が推進する男女共同参画政策が行き詰まっている」こと、相談を担う女性の多くが、一年契約の非正規職員であることなどを問題提起する記事です。
 男女共同参画センターの非常勤問題は、センターで活動する人たちには周知のことでした。でも、身内が知っているのとマスメディアで報道されることの間には大きな溝があります。今回、中日新聞で参画センターの非常勤問題が取りあげられたのは、もしかして初めてかと思うくらい、これまでどこでも取りあげられることはありませんでした。今回それが表に出たのはよかったと思っています。

わたしも『社会運動の戸惑い』の共著者の一人として取材を受けました。

共著「社会運動の戸惑い」(勁草書房)で、男女共同参画政策の現状を書いた富山大非常勤講師の斉藤正美さん(61)は、 「男女共同参画センター自体が、社会の性差別構造を踏襲している」と指摘。センターの事業も疑問視する。多くは意識啓発が中心で、寸劇や紙芝居の制作・上演、かるた作りから、結婚適齢期の子どもを持つ親の交流まで手掛ける市もある。
 「生活の困窮、性暴力、差別に苦しむ声に耳を傾ければ、現在の仕組みの限界が見えてくる。啓発一辺倒の事業、相談・支援員の待遇を見直し、性差別をなくす施策をつくる体制づくりが求められる」と話している。

 このほか、『毎日新聞』今週の本棚 では、次のように取りあげられました。

彼らはなぜ敢(あ)えて、立場を異にする人々への聞き取りを行ったのか。そこには、現在のフェミニズムに対する批判的なまなざしがある。バックラッシュ派とフェミニストが過度に互いを敵視し論争が過激になったことで、広く社会の関心を集める機会を逸してきたという指摘は、ジェンダーにかかわらず何らかの社会運動にかかわる人々にとって他人事ではないだろう。
 ネット時代の社会運動を考察する上でも示唆に富んでいる。

 ネット時代になり、社会運動が以前よりも身近になっている今日、社会運動を考える際に参考になるというご指摘は、この本が広く読んでいただくきっかけになるといいなあと思う。

 その他、朝日新聞、ふぇみん、などの取り上げは、先述の特設サイトをごらんください。

 『社会運動の戸惑い――フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房刊)については、現在、フェミニズムの歴史と理論サイトの「特設ページ『社会運動の戸惑い』」や、twitter,facebookでの発信が中心となっております。

 とはいえ、私の同世代の友人、知人は、twitter,facebookなどをやらない方が多いので、ブログで書かないと発信していないことにもなりまかねません。というわけで、ちょっといくつか遅まきですが、ご報告をしました。

中日新聞の「この人」でとりあげられました。

 4月5日の中日新聞「この人」で斉藤が取りあげられました。共著『社会運動の戸惑い――フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』で男女共同参画が啓発にとどまっていること、共同参画に批判的な人たちが推進活動に参加できるほどその内容があいまいなものとなっていることなど、について紹介していただきました。


 この人 男女共同参画のあり方を問い続ける 斉藤正美さん
2013.04.05 中日新聞 朝刊 3頁 3面 

 「配偶者らからの暴力、生活の困窮などで悩む女性のための新たな施策が練られていない。国も地方もやる気はあるのでしょうか」

 共著「社会運動の戸惑い−フェミニズムの『失われた時代』と草の根保守運動」(勁草書房)で、性を問わず誰もが参画できる社会づくりや性差別の解消が進んでいない現実を指摘した。男女共同参画と言っても啓発にとどまっていて、福井、富山両県では共同参画に批判的な人たちが啓発にかかわっている実態も明らかにした。

 原点は跡継ぎを産めなかったことを死ぬまで悩み続けた祖母を目の当たりにしたこと。「女として生きることはこんな苦しいことなのか」

 子育て中に「社会の窓」として毎日読んだ新聞がひどかった。「ママさん婦警さん お手柄」など女性を強調したり、「全裸」「美人」と性犯罪を詳細に描写する記事に疑問を持ち記者たちと議論を重ねた。この活動から研究者の道に踏みだし、大学院で女性学を研究した。

 富山大の非常勤講師。「女性学の研究者も行政の審議会に入ったりして権威化している」。反省をこめて現状打破を訴える。富山県高岡市在住、六十一歳。(沢井秀和)



 [追記]なお、東京新聞では、4月8日に「男女共同参画社会のあり方を問う研究者」として紹介されました。「女性の政策、国も地方もやる気はあるのか」という副題もついています。印象としては、東京新聞の方がインパクトが強そうと思いましたが、どうでしょう。

よへさの枝垂れ桜2013

 恒例の向富士子さん宅「よへさ」での枝垂れ桜をめでるイベントが、4月13-15日と4月19-22日と2週連続で開かれることになりました。
下記は、そのお知らせです。

 五嶋直子さんの藍九谷はじめ、金屋町前掛け屋(新保ハウス)の前掛け、手作り家具GOY工房の小物などがあります。

 

 なお、これまでの紹介もご参考までに。

「性的指向」を明文化した条例が制定されていた!

 新しい年、最初の記事です。今年もよろしくお願いします。


 昨年12月、関西学院大での『社会運動の戸惑い』読書会に参加したおかげで、「性的指向」を明文化した男女平等参画条例が泉南市で制定されていることがわかりました。金明秀さん、山田真裕さん、先端研のみなさま、ご参加くださった方、大変お世話になりました。さらに、その後のツイート情報でわかったのは、性的少数者の人権を擁護する条令が泉南市以外の市町村にも複数、制定、施行されていたことでした。


 都城市男女共同参画条例については、2006年に再制定される際に、「性的指向」にかかわらず人権が擁護される、と「性的指向」の文言が外された、その経緯やそれがどうして起きたのかについて、4章「性的指向をめぐって」で詳しく述べています。しかしながら、その後、新たに「性的指向」を入れ込んだ条例が策定されていたことは、不勉強で知りませんでした。


社会運動の戸惑い: フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動

社会運動の戸惑い: フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動



 大阪府泉南市泉南市男女平等参画推進条例では「男女が直接的又は間接的に性別及び性的指向による差別的取扱いを受けないこと、男女が個人として能力を発揮する機会が確保されることその他男女の人権が尊重されること。」ということを謳っています。この「平等参画」条例は、2011年12月に公布、12年4月から施行されています。



 この情報は、読書会に参加くださっていた泉南市の@kuko_stratosさんが教えてくださいました。都城で削除されたことをご存じで、それを泉南市で明文化されたたようです*1

 

 こうした新たな状況を私がツイートしたのをご覧になった@three_sparrows さんが、「性的指向」に言及した条例は、少なくとも二つの市町村で制定されていることを速攻で教えてくださいました。

 


 鳥取県琴浦町男女共同参画推進条例は、基本理念に「男女の性別又は性的指向にかかわらず、すべての人の、人権が尊重されること。」とあります。2006年9月公布、施行です。ちなみに、鳥取県は町レベルでも、条例をつくっている自治体が多いようです。


 沖縄県西原町西原町男女共同参画条例では、「その他ハラスメント」の定義において「性的指向」に言及し、そうした「他人の人権を侵害するいかなる行為もしてはならない」と明記しています。こちらは、2012年3月公布、4月施行です。

 

 都城市も、決して都市圏ではない地方の一都市でしたが、今回「性的指向」に触れていることが判明した鳥取県琴浦町沖縄県西原町は、どちらも市よりも小さな単位である地方の町であることに驚きます。また、昨年4月施行の泉南市サイドが他の二つの町の条例をご存じなかったようであり、特段のつながりや連関はなく行われていた模様です。


 それと同時に、自分が知らなかったことを棚に上げてで恐縮ですが、一時はあれほど盛り上がった条例制定運動や、その中でも論争された議題の一つである性的少数者の権利問題だが、表立っての議論が見えなくなったところで一部の自治体で静かに条例に書き込まれていることは、どこまで知られているのだろうか、とも思いました。私を含めて、小さな町のことに関心を払っている人はどれだけいるのだろうか、ということでもあります。


 というわけで、都城市条例に一旦は入ったけれども消えた「性的指向」という文言。これが、いくつかの市町村で静かに甦っていることをお知らせします。やはり、一度しっかりとした取り組みをしておけば、きっとその足跡はどこかに残り、生き続けるものなんですね。一度付けた足跡は残る、ということがわかり、とてもうれしくなりました。そして、これが単に書き込まれ、「見える化」するだけでなく、実質的な政策を伴い、少しでも性的少数者の課題解決に向かっていくような動きにつながればと思います。

 
 

*1:ちなみに、泉南市は、就労に関してもかなり詳細な実態調査を行われています。啓発事業だけではなく、施策として取り組むためにはこういった実態調査が不可欠なことだと思います。

『社会運動の戸惑い』本と富山の男女共同参画政策

『社会運動の戸惑い――フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』は、富山県立図書館、高岡市中央図書館、富山大学付属図書館(中央図書館)にも入り、富山県内でも手に取ることができるようになりました。
 富山県内の書店でも、富山大生協、文苑堂福田店、イオンモール内の喜久屋書店などでも並んでいるのをみかけました。


 富山県内のことばかりご報告しましたのは、実はこの本が富山県男女共同参画政策についてかなり取りあげているからなんです。富山県が始めたとも言われる男女共同参画推進員制度については、「私、推進員になりたいんですが、、」と地元自治体に申し出た時の顛末も書かれています。県内で男女共同参画にかかわっておられる方に、ご興味をもっていただけたらなあと思っております。


 そもそも、私が本書にかかわる原点としては、私が富山県内で男女共同参画政策にかかわったことがありました。まあ、わたしが最初かかわった1990年代初め頃は、男女共同参画ということばはありませんでした。当時は「女性問題」と言われておりました。

 それを、具体的な「男女平等」(現在は、トランスジェンダーや同性愛などを不可視化することにつながる「男女」という二元論的発想に疑問が投げかけられていますが)政策へもっていこうと、高岡女性の会連絡会の仲間たちが高岡市に掛け合い、また私自身、90年代前半に高岡市の男女平等推進計画の策定にもかかわったものでした。病児保育や学童保育の普及、男女混合名簿などその当時、市の計画にあげていった施策には現在、計画に書き込んだことだけが理由ではありませんが、実施されているものも少なからずあります。


 その後、2002年頃から男女平等推進条例策定に関わり、それが制定された後は、男女平等推進センターの運営協議会委員に選任されました。決定的に男女共同参画政策に疑問を持つようになったのは、運営協議会で市側と話をしていく過程でした。それについては、『戸惑い』本の中でも触れていますのでご覧いただきたいです。これが決定的な原因となりましたが、他にもいろんなことが起きて、次第に、男女共同参画センターや推進政策にひっかかりを多く持つようになっていきました。なお、男女共同参画センターに関しては、本の中でも5章「男女共同参画とは何か――ユー・アイふくいの図書問題をめぐって」、ならびに、6章「箱モノ設置主義と男女共同参画政策」で詳しく論じています。


 私がセンターに疑問を持っていた2000年代半ばに、富山県男女共同参画推進員に意外な方が潜って活動をしておられました。このことについても、『戸惑い』本では5章で詳しく触れています。ぜひご覧いただきたいと思います。


 なお、ツイッターでの『社会運動の戸惑い』 #tomadoi 感想ツイート集」も読まれ方々の感想で充実しておりますので、ぜひご覧になってください。このエントリーとは関係ないですが、今現在、あまたあるネット・ツールの中で、ツイッターが情報のフローには一番役に立つ、ということを実感したのも、この本のステマ(スティルスマーケティング)活動の実践的効果でしたね。


 では、どこかの図書館、書店でこの本を手にとっていただき、感想ツイートを発していただければうれしいです。実は、富山県の参画政策や、参画センター、ヌエック関連の感想が、少なくて寂しいのです。

 
 

社会運動の戸惑い: フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動

社会運動の戸惑い: フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動

『社会運動の戸惑い』読書会@関西学院大学(12月16日)

 関西学院大学の金明秀さんと山田真裕さんがご尽力くださり、12月16日関西学院大学にて、『社会運動の戸惑い』読書会のイベントを開いていただく運びとなりました。

 ちょうど山口智美さんが日本に調査に来られる予定なので、山口さんと私も著者サイドで参加させていただく予定です。

 政治学がご専門の山田さん、社会学で特に量的調査をご専門とされている金さんなどの幅広い分野の方からご感想をいただけるよい機会となるので、とても楽しみにしているところです。


日時:12月16日(日)2:30-5:00pm


場所:関西学院大学社会学部棟3階セミナールーム


 関西学院大学へのアクセス

書評コメント 山田真裕さん(関西学院大学法学部)、金明秀さん(関西学院大学社会学部)

レスポンス 山口智美モンタナ州立大学社会学・人類学部)、斉藤正美(富山大学

フロア含めた自由討議


 詳細は近日中に、関西学院大学先端社会研究所のサイトにも掲載予定です。


 

うれしいお知らせ:『社会運動の戸惑い』の増刷決定!

 今日はうれしいお知らせです。『社会運動の戸惑い』の増刷が決定しました〜。発売10日余りでの増刷です。


はやっ。びっくり。増刷してくれればいいなあとすご〜〜く望んではいたけど、10日余りで増刷とは予想だにしておりませんでした。

 

社会運動の戸惑い: フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動

社会運動の戸惑い: フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動


 取材を受けていただいたみなさま、本をご購入くださったみなさま、ツイッターで感想、コメントなどを書いてくださったみなさま、そんな方々への感謝の気持ちでいっぱいです。


 多くの方に読んでもらいたいという一心で書いたものですので、この本がより多くの人の手に渡ることになることを大きな喜びとともに受け止めております。本当にありがとうございました。


 また、麻木久仁子さんが、書評で取りあげていただけるようです(11月の今月読む本 その2)。そして、山口智美さんが日本滞在中の12月には読書会などの予定も計画中とか。ますます多くの人の手にこの本がわたることになればと望むだけです。ツイッターやメールなどでいただいたコメントにもおいおい答えていきたいと思っておりますので、引き続きどうぞよろしくお願いします。


 ほんと今日はうれしいわ〜〜。