日本女性学会@青森報告その1

 女性学会@青森(会場は市内にある青森県男女共同参画センターアピオあおもり:写真)に参加した。思えば女性学会に参加したのは5年ぶりだった。懐かしいお顔に出会い、またブログなどでいろいろ疑問を書いてきた方々に直にお目にかかる機会となった。五年前の学会 以来久しぶりに参加して強く思ったのは、女性学会の学会会員の方達の考え方やその前提とわたしとのそれとの隔たりがまたまた広がっていたことであった。yamtomさんが日本女性学会レポートその1 で「よってたつ前提にかなりずれがあるのに、それがないかのごとく、同質性の高い集団という前提のもとにすすめられていく議論」への違和感を書かれていて興味深い。そこで、わたしは「前提のずれ」がどのようなところにあるのかを具体的にとりあげてみたい。

 「前提がずれている」ことの第一に、「バックラッシュ」への対応があった。わたしには学会が「バックラッシュ」を恐れるゆえに、外に向かって扉を開くことなく、閉じてしまっているように見えた。総会では、入会申し込みを増やしたいという一方で、入会申し込みの基準が厳しいことが議論になった。学会に入会するには、1)学会員2名の推薦が必要、あるいは2)入会希望理由記入欄に、入会希望の理由(100字以内)&研究テーマ・活動領域(100字以内)&主要な論文等の要旨(300字以内)の3つを書き込む、という2つの方法がある。特に、2番目の基準が厳しすぎるのではないかという意見が出ていた。これだと「主要な論文」を書いていない院生(学部生はもちろんのこと)や市民運動の人たちは入れないことになる。学生は大学の教員の推薦という手もあるだろうが、2人の教員の推薦をもらうことを考えるとよっぽど発表をしたいなどの条件が揃わないと、まあいいやとなるのではないだろうか。そこまでして入りたいだろうか。もっと会員を増やしたいと思うのであれば、これは厳しすぎる制約だと思う。逆にいうと、それほど「バックラッシュの人たち」を恐れなくてもいいのではないだろうかと不思議に思えた。異論を唱える人が数名入ってこられただけで学会がそうあたふたすることにはならないと思う。論客をもって鳴らしておられるそうそうたる面々のお顔を見ながら、どうしてこれほど「バックラッシュ」を排除することに一生懸命なのかわからなかった。「バックラッシュ」を恐れるあまり、外に向かって門戸を狭くすることになっている。「バックラッシュ」を排除するということは、異なる意見の人を受け付けないというスタンス(外からはそのように見えることでしょう)になるのだが、そういう前提に立っていることにわたしは疑問をぬぐえない。

 第2の「ズレ」は、「バックラッシュ」があるから女性学会がホームページに学会代表幹事などの学会体制について公開しないで済むと考えている点だ。この前提は、前のエントリーでも触れたホームページについて、総会でわたしが手を挙げて意見を言ったことの核心でもあった。懇親会の時間が来ているからもう締め切りだと言われている中で最後の一人として意見を言ったので、あせって十分には言えなかったところなのでここで改めて表明しておきたい。(学会参加して、当ブログを見に来てくださっている方が意外と多いことがわかったし)これについては、当然のように、「バックラッシュ」があるからというお返事が返ってきた。しかし、公的学会である以上、それでは責任を果たし得ないだろう、それに顔が見えないのもどうだろうかという趣旨のことを述べた。yamtomさんも書いておられるが、「ホームページ充実のための初期投資」として「ホームページ更新維持費」に36万円もあてている。そしてその額は「大会総会費」30万円よりも大きい額であった。

 そんな力を入れているホームページに、責任者の名前を入れない、顔の見えないのはどう考えてもおかしい。しかし、学会幹事や学会幹事経験者が大半のようにみえた総会参加者には、「バックラッシュ対応」は何よりも優先されることと考えておられるのでわたしの言っていることが通じていないようだった。それに関して納得のいく答えは返ってこなかった。なんだか、多くの方は「バックラッシュ」があるから学会責任者について公開しなくても仕方がないのだという考えに立っておられるようなのだ。「バックラッシュがあるから学会体制は公開しなくて構わない」という前提を学会の方達が共有しておられるのだとしたらそれはびっくりすることだ。たかがごく一部の異なる意見の人たちの存在のために、学会がどういう人たちによって担われているか体制を公開しないということが是認できることだろうか。

 第三の「ズレ」は、このように「バックラッシュ」がすごく巨大な敵になっているようなのに、「バックラッシュ」について真剣に議論しなくていいという前提が学会にあるらしいことだ。それは今回の学会プログラムをみても、「バックラッシュ」をテーマにする研究発表がみられないことからも推察できることだ。一部取り上げていたのは、シンポジウムでの皆川満寿美さんくらいだった。しかし、皆川さんもワークライフバランスの政策を論じる中でのことだ。新聞記事などに基づいて話題にしておられただけで特にリサーチされているようにも見えなかった。そのような状況から、学会での「バックラッシュ」への関心はもそう高いものではなく、「バックラッシュ」は、単に「とんでも発言」として笑い飛ばす対象となっていたように見えた。「バックラッシュ」が何か、を真剣に議論し解明する意欲があるようには決してみえなかった。その中で「バックラッシュ」があるからといって学会の幹事や代表幹事すらインターネットで公開できないという論理は認めることのできないものである。単なる想像上の怪物にしてしまうのは、学会としてはきわめてまずいことではないのか。むしろ門戸を開いて同じ地平で議論する方が学会にとっても有益であるし、社会一般にとってもそれが有意義な方向と考える。

 こんなそんなで、女性学会参加により、単に考え方が違うということにとどまらず、「考え方の前提」においてかなり異なることがわかった。そしてid:yamtomさんが書いておられるように、「よってたつ前提にかなりずれがあるのに、それがないかのごとく、同質性の高い集団という前提のもとにすすめられていく」という点は学会として問題であると思う。また、学会員を増やそうと思うのであれば、異質な声をつとめてひろっていくスタンスが求められると思った。今回、学会幹事が代わり、木村涼子代表幹事、海妻径子代表代行という新体制になるので期待して見守っていきたいと思う。