自民党議員らが今国会に提出している「女性活躍」法案とは?

 今国会に、ある法律案が提出されている。「女性が活躍できる社会環境の整備の総合的かつ集中的な推進に関する法律案」という、自民、公明の男性議員が中心になって策定し、提出されている法律案である。

重要法案が続々審議されている最中なので目立たず、話題にもならない。しかし、ツイッター山口智美/@yamtomさんが取りあげていたのをみて、初めて法律案の条文を読んだ。一見すれば、女性の活躍を推進するための環境整備をすると謳う法案であるから、だれも反対する理由はなさそうだ。しかし、よく読めば疑問が噴出する。そして危機感が募った。これは男女共同参画社会基本法を無力化する恐れがある法案だと心配にもなってきた。


私は、『社会運動の戸惑い』にも書いたことだが、高岡市の男女平等推進条例や、それ以前の同市の女性問題に関する行動計画づくりに、90年代初めから、相当の時間をかけて関わってきた。
だから、この法案が成立すれば、女性運動が主導して、女性問題、男女平等関連の政策の根拠となってきた、男女共同参画社会基本法をなし崩しにする恐れがあると心配になったのだ。自分たちが長い時間かけて足下の困難をすくい上げそれを政策化するためにと、関わった女性政策の行動計画づくりや男女平等推進条例である。それがなし崩しに何十年前に引き戻される恐怖を感じた。


 なぜ、この女性活躍法案が男女共同参画社会基本法を無力化すると思うか、理由を挙げよう。
 第一に、その目的である。

第一条 この法律は、男女がそれぞれ自己の希望を実現し豊かな人生を送ることができるようにするとともに、社会の担い手の確保並びに多様な人材の活用及び登用により我が国の経済社会の持続的な発展を図るためには、職業生活その他の社会生活と家庭生活との両立が図られること及び社会のあらゆる分野における意思決定の過程に女性が参画すること等を通じて、女性がその有する能力を最大限に発揮できるようにすることが重要であることに鑑み、女性が活躍できる社会環境の整備について、その基本理念その他の基本となる事項を定めることにより、これを総合的かつ集中的に推進することを目的とする。


両性ではなく、なぜに「女性活躍」に絞る必要があるだろうか。ここがポイントだと思う。両性ならば、男女共同参画社会基本法の範疇になるが、それを越えた内容だからではないだろうか。一見するとそうは見えないところが、くせ者である。

「男女がそれぞれ自己の希望を実現し豊かな人生を送ることができるようにする」ことを挙げ、「職業生活その他の社会生活と家庭生活との両立が図られること及び社会のあらゆる分野における意思決定の過程に女性が参画すること等を通じて、女性がその有する能力を最大限に発揮できるようにすることが重要である」と謳う。これだけ見れば、あれ、男女共同参画社会基本法とどこが違うのか、なぜ新たに、この法律を新たに出すのか?と疑問がわき出てくるところだ。


 しかしながら、上に書いたことは、実はこの法案の「目的」ではないのだ。単に、そういう視点を持つと言っているにすぎない。そして、目的は、以下の通り。

女性が活躍できる社会環境の整備について、その基本理念その他の基本となる事項を定めることにより、これを総合的かつ集中的に推進することを目的とする。

そして、その後、国の責務や、地方公共団体の責務、事業者の責務などが続く。また、具体的には、時間外労働等の慣行の是正、女性の支援体制その他が列記されている。だが、これだって、男女共同参画社会基本法や、雇用機会均等法の範疇とも考えられよう。「女性が活躍できる社会環境の整備を総合的かつ集中的に推進する」というが、それは共同参画社会基本法の方向性であったはずだ。なぜに新法を敢えて提案しなければならないのか。

先に述べたように、敢えて「女性の活躍」に絞った基本法を策定するところに、本法案の深い意図が潜む。それは、第二条で述べられている、基本理念をみるとよりクリアになる。

(基本理念)
第二条 女性が活躍できる社会環境の整備は、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。
一 男女が、家族や地域社会の絆を大切にし、人生の各段階における生活の変化に応じて、それぞれその有する能力を最大限に発揮して充実した職業生活その他の社会生活を営むとともに、子の養育、家族の介護その他の家庭生活における活動について協働することができるよう、職業生活その他の社会生活と家庭生活との両立が図られる社会を実現すること。
 二 妊娠、出産、育児、介護等を理由として退職を余儀なくされることがないようにするための雇用環境の整備の推進及びそれらを理由として退職した者の円滑な再就職の促進等を行うことにより女性の就業率の向上を図るとともに、社会のあらゆる分野における指導的地位にある者に占める女性の割合の増加を図り、女性がその有する能力を最大限に発揮できるようにすること。
 三 少子化社会対策基本法(平成十五年法律第百三十三号)及び子ども・子育て支援法(平成二十四年法律第六十五号)の基本理念に配慮すること。


 二条の一、二については、基本的に、「それぞれその有する能力を最大限に発揮して充実した職業生活その他の社会生活を営む」や「妊娠、出産、育児、介護等を理由として退職を余儀なくされることがないようにするための雇用環境の整備の推進」など、男女共同参画社会基本法の理念と似たような文言を散りばめている。


しかし、法案二条の三項をよく見ると、「妊娠、出産、育児、介護等」の役割を有する「女性がその有する能力を最大限に発揮できるようにする」ということこそが重要だと、いうことがわかる。少子化社会対策基本法及び子ども・子育て支援法の基本理念に配慮せよ、と述べているからだ。

一項、二項とは異なり、三項は、二つの法律を根拠としているところもミソだ。しかも、これらは、具体的な法律の上位に来る基本法的性格をもつ法律である。そして、この両法は、いずれも「父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有する」ことをその基本理念として強調している。環境整備といいつも、子育ての責任は第一義的に父母にあると、父母の責任を強調しているのである。これは何を意味しているだろうか。


 この法案を読み、どうしてこの法案提出議員らは、基本理念の一及び二項に、男女共同参画社会基本法の理念に配慮せよと基本法を持ってこなかったのだろうか。なぜ、三項のみ、法律名を出しているのか。どちらが強いかというと、法律名を出した条項の方であろう。

どうもこの基本理念の三の趣旨がこの法案の核心なのではないかという疑いが強まる。この法案は、男女両性の活躍を詠った男女共同参画社会基本法では包含しない部分、すなわち、女性に絞った、女性だけが持つ特徴にポイントが置かれている。臆せず言うなら、「女性よ、子産み、子育てをしっかりやれよ」「少子化を食い止めるために、子どもを産めよ」という理念をこそ、この法案は秘めているのではないだろうか。

 この法案では、政府が新たに「学識経験者、労働者、事業者」などの意見を聴取することができるとある。現政権の考えに近い専門家に意見聴取すればどうなるか、言わなくても明かであろう。また、「実行計画を策定する」ことをも規定しており、かねてより、男女共同参画社会基本法を廃案にすることを掲げていた保守界隈にとっては、廃案を提案しなくても、事実上無力化するこの法案は、意を汲んでくれた、「御意」という感じで、まさに願ったり適ったりであろう。


 心配が募り、衆議院に電話をかけた。この法案を議員提案している議員がだれとだれか、この法案は国会でどういう状況に置かれているか、今後どうなるのかを問い合わせてみた。


 その結果わかったことは、松野博一議員を含め薗浦健太郎永岡桂子宮川典子藤井比早之
高木美智代、古屋範子、大口善紱という、自民党の議員が4名と公明党の議員3名の7名の議員が中心になって策定した法案だということだ。


 この法案の現在および今後の展開については、現在、自民と公明を除く野党6会派から趣旨説明を求める意見が出ているという。それで付託希望の内閣委員会の委員長や理事などで協議し、本会議で趣旨説明をしてから内閣委員会に付託するか、あるいは本会議での説明抜きで、内閣委員会に付託し審議するかなどを決めるのだという。電話に出た担当者によれば、野党からの趣旨聴取はスキップされることもあると述べていた。


 次に、提出された議員のサイトを覗いてみた。松野博一議員のサイトの政策を見れば、女性の活躍の社会整備には、真っ先に、「家族や地域社会の絆を大切に」することを挙げるなど、これまで男女平等や男女共同参画などで謳ってきたこととは相容れない主張が展開されている。他の方についても、男女共同参画や、女性の権利や雇用の平等などの政策に関わってこられた方を、うまく見つけることができなかった。この議員さんのサイトで政策などをチェックすると、教育再生や、強い外交などに関心を持つ男性議員らが主導している「女性活躍」の法案を提出されていることに、さまざまな疑問が生まれてくる。



中心になった松野議員のサイトでは、「特に女性の社会参加を妨げている三つの関門といわれている「出産子育て」・「親の介護」・「夫の介護」を支援する制度の強化が必要である」とあって、のけぞった。「妻の介護」や「親の介護」をしている男性が多くなっている現状からは、男女ともに役割にこだわらない働き方の環境整備こそ必要である。それにもかかわらず、松野議員の頭の中には、「女性の社会参加」しか浮かんでいないようだ。

 なぜ、女性だけ「社会参加」や「活躍」が叫ばれるのだろうか。どう考えてもおかしい。男性だって、「活躍」したいかもしれないのにもかかわらず、、。男性は働くことだけしっかりやればいいと、ご自身の日々の生活から思っておられのだろうか。


 さらに見てみると、松野議員は、文部科学省関係に関わり、教育畑に強い議員のようである。そして、「政治の最大の仕事は、国民の活力を引き出し、社会参加を推進していくことにある」と主張されているのが目に入った。ああ、そうか。女性活躍を銘打った法案を作成されたのは、女性を社会に参加させるためにもっと、「社会に参加するための基本となる知識やルールを身につけさせる教育」を女性に施そうということなのかなとすら、思えてきた。


いくら、男女共同参画社会基本法や同条例はあまり有効に機能しているとはいえないとはいえ、それを無力化する法律が新たに制定されれば、男女共同参画社会基本法はあっても意味のない法律となる。条例も含めそれを根拠として担保されてきた、男女共同参画センターなどは存立の基盤が崩されてしまうと言える。それほどの破壊力を持った法律案であるように私には思われる。



これまでこの法案について積極的に書いているのが、提出した藤井比早之議員や、保守の掲示板などと、むしろ保守側が強く関心を示したり、作りたがっている法案ともいえる。フェミニズム男女共同参画系がうっかりしている間にこれが成立してしまい、あとで後悔しても遅い。



 男女共同参画社会基本法の策定にご尽力された政治家や学者のみなさんには、関心をもっていただけたらと思う。また私が知る限り、フェミニズム男女共同参画界隈では、あまり話題になっていないようなのだが、男女共同参画センターを活動拠点として日々活動や運動に尽力されている方々も、この法律に関心をもっていただけたらと切に願う。



 私も詳しいことを知る立場ではないのに書いており、間違っていることもあるかもしれない。もっと情報をお持ちの方にはぜひいろいろと発信していただけたらとお願いしたい。
 

【追記】議員の党派を訂正します。高木美智代、古屋範子、大口善紱議員のお三方が公明党所属とわかりました。自民4名、公明3名と訂正させていただきました。(6月19日)